曽我和弘のBAR探訪記「噂のバーと、気になる一杯」

酒を楽しみたい・・・。そう思ったとき、人はバーという止まり木を探す。そしてバーテンダーと話をしながら酒なる嗜好品を味わっていくのだ。そんな酒の文化を創り出してきたバーも千差万別。名物のカクテルで勝負している店もあれば、バーテンダーの人柄や店の雰囲気で人を集めているところもある。数ある名物バーを探し、今宵はコレを飲んでみたい。

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軽やかに、爽やかに、そして美味しく・・・
大阪府・北新地
BAR YOSHIDA(バー吉田)

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BAR YOSHIDA(バー吉田) 写真

FOODが充実した個性的なバー

かつて某バーで、「マッカラン」を飲む会を催したことがある。参加者は私が座長を務める関西食ビジネス研究会の面々。12年から30年まで、年代ごとに味わいながらその変化を楽しんだ。モルトファンが「最高級のシングルモルトだ」と賞賛する「マッカラン」は、原料の二条大麦に効率だけを重視しないこだわりの品種を使用することや、蒸溜器のサイズがスペイサイドで、一番小さいなどの特徴を持つ。おまけに熟成にはシェリーの空樽しか使用しないというこだわりを持って造られている。

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そんな「マッカラン」の中でも珍しくヨーロピアンオークのシェリー樽原酒、アメリカンオークのシェリー樽原酒、バーボン樽原酒の3つの異なった原酒を絶妙にヴァッティングしたウイスキーがある。今回はその「マッカランファインオーク」に惹かれて一軒のバーに立ち寄った。 少しムシムシした今にも泣き出しそうな空模様の日に出かけたのは、北新地本通り(大阪)にある「BAR YOSHIDA(バー吉田)」。店名からわかるように吉田貴史さんが営む店だ。吉田さんは、阿南市(徳島)の出身で、大阪では「Beso」の佐藤章喜さんのもとで修行を積んだ。そして2008年10月に「バー吉田」をオープンさせている。学生時代にアルバイトで勤めたバーで、この仕事の面白さを知り、酒に携わる仕事がしたいと考え、卒業してもバーに残って働いていた。27歳の時に、「北新地で店をやりたい」と一念発起し、大阪にやって来る。若い頃から10年したら自分の店を持とうと思っていたらしく、「Beso」で4年ほど働いた後に、33歳で独立している。「Beso」は、バーには珍しく炭火の焼き場を有す店。そんな店で修行を積んだのだから、吉田さんの店もフードが充実している。独立時に「カクテルを飲みながら、旨いアテが食せる店にしたい」と考えたようで、フードは常時40種類ラインナップ、何を選ぼうかと迷うほどだ。当然、酒のアテとなるものはあるのだが、レストラン並みにがっつり食せるものがあり、むしろ食事をせずに行った方がいいかもしれない。

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ハイボールという名のカクテル

吉田さんの個性が光るこのバーで、私は旨いハイボールにありつこうとしている。「バー吉田」では、単に「ハイボールを」と注文すると、「マッカカランファインオーク」で作ってくれる。勿論、銘柄を指定すると、色々と作ってはくれるのだが、ハウスハイボールとなると、「マッカランファインオーク」を使った一杯となる。吉田さんはハイボールをカクテルの一種だと位置づけている。「ウイスキーカクテルのひとつだから、単にソーダを注ぐのではなく、フレーバーの相性や氷の入れ方にもこだわって作りたい」と語っている。 私が「こんな日にピッタリなハイボールを作ってください」と言うと、吉田さんはおもむろにグラスを取り出し、「バー吉田」のハウスハイボールを作り始めた。 吉田さんのハイボールへのこだわりは、使用するグラスに氷を入れるところから始まる。この時の氷は、俗に“泣きの氷”と呼ばれる柔らかめのもの。適度な大きさで、滴がしたたるぐらいの氷を用いている。氷を入れると、ステアして、グラスを冷やす。それから「マッカランファインオーク12年」を40ml注ぎ、もう一度ステアする。ここまで行った上で、グラスから氷を取り出すのが吉田流の作り方らしい。「初めに柔らかめの氷を入れるのは、酒と水の結合をよくし、酒の甘さを引き出すためです。そこにソーダを注いでしまうと、水っぽくなるので、あえて入っていた氷を捨てるんですよ」と説明してくれた。氷がなくなったグラスにソーダを100ml注ぎ、次に大きめの氷を1個入れる。そしてレモンピールを搾りかけて出来上がる。

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「再度入れた氷は、−15℃の冷凍庫で管理しているもの。これは保冷のためなので、あえて硬く締まった氷を1個だけ入れています」。吉田さんの話では、角が沢山あるものはガスが抜けやすく、しかも角から溶けていくので水っぽくなりやすいとのこと。だから氷を入れ替える。さらに「マッカラン ファインオーク」のフレーバーとの相性からレモンピールをかけている。「このウイスキーの持つバニラフレーバーには、爽やかな柑橘系の香りがマッチします。どんなウイスキーでもそうするわけではないのですが、こと『マッカラン ファインオーク』を使った時には相乗効果を期待してレモンピールをかけているんですよ」と話してくれた。レモンピールがかかっていると、よりカクテルに近い感覚でハイボールが味わえる。吉田さんはそんなことを考えながら、この一杯を作っているのだろう。 そもそも吉田さんは「マッカラン」が好きなのだとか。でも、「マッカラン12年」だと、シェリー樽の香味が立ちすぎてハイボールにはふさわしくないと思っていた。そこで「マッカランファインオーク」を試してみた。すると、バニラ香が引き立ち、甘さとコクのバランスがよくなったのだ。「バーボンソーダが旨いのと同様に、この酒はバーボン樽で寝かせた原酒を使っているので、ソーダで割ると、実にのびがいいんです。そこに柑橘系の香りをプラスすると、清涼感が出て美味しくなるんですよ」。 「マッカランファインオーク」は、3つの樽の原酒で構成されているシングルモルトだ。ヨーロピアンオークとアメリカンオークのシェリー樽で熟成させた原酒も用いているが、アメリカンオークのバーボン樽原酒も使っているので、「マッカラン」にも関わらず、かつて飲んだバーボンソーダのようなテイストが感じられる。「マッカラン」が重厚で紳士的な酒だとすれば、こちらは華やかだが、親しみやすい味わい。ハイボールにして軽やかに飲むにはピッタリなのだ。ソーダで割ると、その酒の特徴が浮かび上がるという。「マッカランファインオーク」を使ったこの一杯は「マッカラン」特有の味を残しつつも、ライトでスムーズな飲み口となっている。

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この爽やかな一杯を飲んでいると、吉田さんは「ハイボールには、コレが合いますよ」と「フィッシュカツのホットサンド」を出してくれた。吉田さんの出身地・徳島では、フィッシュカツは県民なら誰でも食す料理らしい。太平洋で獲れた白身魚のすり身を練り合わせて作るそれは、知らない人がいないというほどの県民食なのだとか。この店ではハムカツサンドのような厚さにしてフィッシュカツをパンに挟んでいる。二層の一方は、玉ネギととろけるチーズを合わせたもの。食べると、カレー風味が効いており、何となくクセになりそうだ。 「ハイボールに揚げ物はマッチしますね。だからフィッシュカツが合うんですよ。その影響ではないでしょうが、この一品はうちの名物になっているんです」。さすがにフードが充実しているだけあって、こんなにいいアテが潜んでいるとは・・・。これを食べると、余計に酒が進みそうだ。 コンセプトに「カクテルを飲みながら美味しいものを食せる店」を掲げるだけあって、ウイスキーとのマリアージュも実によく考えられている。そして「ハイボールもカクテルの一部」と言う吉田さんだけに、考えぬいて「マッカランファインオーク」をハイボールに使っていることが理解できる。かつてNBA全国技能競技大会で2年連続総合3位に輝き、2008年にはアジア大会で準優勝した腕前はこんな単純なハイボールにも表れていた。

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お店情報
  • 住所大阪市北区曽根崎新地1-5-8 ピアース8ビル2階
  • TEL06-6345-3332
  • 営業時間18:00〜翌4:00(月曜〜土曜)
  • 定休日日祝日
メニュー
  • マッカランファインオークのハイボール1200円
  • 山崎12年1400円
  • 白州12年1400円
  • ボウモア12年1200円
  • フレッシュフルーツのカクテル1400円〜
  • BISOUS(ビズ)<アジア大会準優勝カクテル>1600円
  • ジントニック1200円
  • 徳島産フィッシュカツのホットサンド900円
  • 徳島名産半田そうめん800円
  • ポートワイン煮込み自家製ビーフカレー1000円

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