曽我和弘のBAR探訪記「噂のバーと、気になる一杯」

酒を楽しみたい・・・。そう思ったとき、人はバーという止まり木を探す。そしてバーテンダーと話をしながら酒なる嗜好品を味わっていくのだ。そんな酒の文化を創り出してきたバーも千差万別。名物のカクテルで勝負している店もあれば、バーテンダーの人柄や店の雰囲気で人を集めているところもある。数ある名物バーを探し、今宵はコレを飲んでみたい。

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ハイボールをアロマスタイルで...
大阪府・弁天町
BAR AROMA(バー・アロマ)

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BAR AROMA(バー・アロマ) 写真

地域に根差したバー

大阪に港区という区がある。東京から転勤してきた人は、どうしても東京の港区とかぶるのか、この場所に住もうとする。しかし、大阪市港区には六本木のような派手な場所はなく、あるのは夕凪(ゆうなぎ)、港晴(こうせい)、波除(なみよけ)という地名。何を隠そう、大阪の港区は地名からもわかるように本当に港の近くなのである。今回は、東京よりもアットホームな大阪の港区でオシャレに酒を飲める店へ行ってみた。 JR環状線・弁天町駅の北口改札から、波除方面へ出てすぐの交差点の所にあるのが「BAR AROMA(バー・アロマ)」だ。居酒屋などが並ぶ通りにあるわりには、オシャレな外観が目立っている。「弁天町という町は、アットホームな雰囲気を持つ下町です。だからうちもバーというよりもパブに近い感覚ですかね」と店主の桧垣元克さんは言う。桧垣さんは弁天町のランドマークともいえる「ホテル大阪ベイタワー」に勤めていた。30歳になるまでホテルのバーテンダーとして勤めあげ、ホテル近くのこの場所に「アロマ」をオープンさせた。ということはホテル専門学校を卒業して以来、ずっとこの地で根を降ろしてお酒を提供していたことになる。

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桧垣さんは「パブに近い感覚で」と謙遜しているが、「アロマ」はスコッチ、バーボン、アイリッシュ、ジャパニーズとウイスキーのラインナップも豊かで、繁華街にあっても十分通用するオーセンティックバーである。しかも桧垣さんは「2005サントリーカクテルアワード」でロングカクテル部門の入選を果たしたほどの腕前だ。その受賞作「かぐや〜竹取物語〜」は、同店では人気のあるカクテル。「山崎12年」30ml、「焙煎樽仕込み梅酒」20ml、「ミドリ」10mlと「ハーゲンダッツグリーンアイスクリーム」20mlで作るフローズンタイプの一杯である。「甘さは強いですが、大人のデザートカクテルと称してもいい味わい。がっつり『山崎』の味が効いています」と教えてくれた。 「アロマ」は2000年にオープンしたのだが、桧垣さんはこの店と掛け持ちする形で、「サントリー山崎蒸溜所」のテイスティングカウンターでも仕事をしていた。たまたまそこで働く知人から誘いを受けたのが縁で、蒸溜所見学で忙しくなる週末だけ手伝っていた。「蒸溜所で働いたことがいい勉強になっています。徹底した品質管理を目の当たりにしましたから、我々バーテンダーもきちんとしたものを出さないといけないなぁと襟を正しました」。 そう話す桧垣さんの店では、本来「山崎」を頼めばいいのだろうが、天の邪鬼な私は一杯目の酒として「白州」のハイボールを注文してしまった。すると、桧垣さんは「常連さんや酒の知識のある人には、違った形で提供することがあるんです」と言って「白州のハイボール アロマスタイル」を薦めてくれた。

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いつものハイボールと、ちょっぴり味が違う

ハイボールに飽きた人に薦めているというこの「アロマスタイル」とは、「白州12年」をベースにして作られる。まず、ミキシンググラスに氷を7分目まで入れ、その上から「白州12年」を45ml注ぐ。そして「アンゴスチュラビター」を1ダッシュ入れ、若干長めにステアする。それをワイングラスに注ぎ、ソーダを一気に60ml加え、レモンピールをかける。ワイングラスを用いるのは、香りが引き立つから。「白州12年」の味をシンプルに出したいから、あまり余計なものは加えたくないと桧垣さんは話してくれた。 飲んだ印象は、ソーダのシュワシュワ感が出て、実に爽快。なぜかいつも飲む「白州」のハイボールより甘さを感じた。私が「甘みがあって美味しい」と言うと、桧垣さんは「甘みがありますか」と首を傾げながらも「氷が入っていない分だけ、そう感じるのかもしれませんね」と返してくれた。

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この一杯は、従来のハイボールとは違ってグラスの中に氷が入っていない。ミキシンググラスの中であらかじめ「白州」を冷やし、それをワイングラスに注いでいる。「うちでは『角瓶』は冷凍庫に入れているんですが、『山崎』『白州』クラスはもったいないので、常温で置いています」。いったん氷の中にそれを注ぐことで、味に丸みが出てくるんですよ」と解説してくれた。隠し味として「アンゴスチュラビター」を入れるのも「白州」のスモーキーさを引き立てる意味があるとのこと。桧垣さん自身、アンゴスチュラビターは「マンハッタン」に使うぐらいで、あまり使用しないのだとか。「山崎」だとあまり合わないが、「白州」や「角瓶」には相性がいいと付け加える。「バーテンダーごとに色んな流儀があるんですが…」と前置きした上で、「本来なら炭酸を逃がさないようにそっと注ぐべきかもしれませんが、私はシュワシュワ感を出したくてソーダを一気に入れています。一気に注ぐことで炭酸の花を咲かせるんですよ」と話す。 「バーは場所によって出るものが違ってきます。北新地や銀座などはフレッシュフルーツを使って一杯1500円〜2000円のカクテルが売れますが、ここではそうも行きません。お値うち感がなければ、来てくれないんですよ」。だから桧垣さんはローカルなりのバーの愉しみ方があると言う。弁天町にあるこの店では、ホテルで見られる気取った感じや北新地や銀座などのスマート感はむしろいらないようだ。バーテンダーとの距離も近く、世間話をしながらお酒を飲む愉しさがそこにはある。

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桧垣さんは時には思い切って、店を数日間休み、海外へ行く。スコットランドには何度も訪れたことがあるそうだが、30代からはアイルランドにはまっているらしい。「仕事柄、どうしても蒸溜所へ行くことが多いんですが、昨年はベタな観光をしてみたいと、フランス、イタリア、スペインの観光地を巡りました。でも、お酒のことが気になるので、リカーショップやパブへはついつい足を向けてしまいますがね…。パリのウイスキーショップで『山崎』のボトルを見つけ、何だか嬉しくなってしまいました」と語る。そう言うだけあって桧垣さんはジャパニーズウイィスキーの虜になっているようだ。そして旅には必ずミニチュアボトルを持参するらしい。「パブで知り合った人に、レストランを教えてもらったりすると、お礼に『白州』や『山崎』のミニチュアボトルをあげるんです。彼らは漢字のタイトルが入ったそれに、いたく感激してくれるんです」。そんなエピソードを聞いていると、二杯目もジャパニーズウイィスキーにしなければ…と、ついついこちらも思ってしまう。これもバーテンダーとの距離が近い弁天町のバーの成せる技かもしれない。そんな感想を持ちながら下町のバーで時を忘れた。

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お店情報
  • 住所大阪市港区波除3-8-11 コアロード2000 1階
  • TEL06-6585-2255
  • 営業時間18:00〜翌2:00
  • 定休日日祝日
メニュー
  • 白州のハイボール アロマスタイル1100円
  • 白州18年2100円
  • 山崎12年 1100円
  • 角ハイ700円
  • マッカラン12年1000円
  • ジントニック800円
  • ソルティドッグ900円
  • マティーニ800円
  • かぐや〜竹取物語〜1200円

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