曽我和弘のBARのトレンドを読み解く!

酒を楽しみたい・・・。そう思ったとき、人はバーという止まり木を探す。そしてバーテンダーと話をしながら酒なる嗜好品を味わっていくのだ。そんな酒の文化を創り出してきたバーも千差万別。名物のカクテルで勝負している店もあれば、バーテンダーの人柄や店の雰囲気で人を集めているところもある。数ある名物バーを探し、今宵はコレを飲んでみたい。

バックナンバー

スローなカクテルで時の過ぎゆくままに…
京都府・四条河原町
Bar Rocking chair(バー・ロッキングチェア)

京都府・四条河原町
Bar Rocking chair(バー・ロッキングチェア) 写真

ゆっくり、のんびりがコンセプト

「Bar Rocking chair」―、その名を聞いて、のんびりと酒を飲む自分を想像した。阪急四条河原町駅から程近いこのバーは、2009年2月オープンとまだまだ新しい店である。四条通りに面した「藤井大丸」の西側の筋(御幸町通)を南下すると、二筋目を通り過ぎた辺りにこのバーが現れる。 この店も京都のバーらしく町家を改造したもの。店主・坪倉健児さんが自ら彫ったという看板の横には、なぜかしら薪が積まれた光景が見える。家の玄関を開けるかのように扉を開け、いったん店内に入ってみると、そこはクラシック音楽が似合いそうな落ち着いた空間が広がっている。「雰囲気のいい店ですね」と感想を述べると、坪倉さんは、「自分のイメージしたものを造ってもらったんですよ」と話してくれた。坪倉さんは下鴨(京都)の出身で、大学に行くために一時、京都を離れた。学生時代は教師になりたかったようだが、東京で人格者とも思えるようなバーテンダーと出会い、その人から珍しい酒を教えてもらったりしているうちにこの世界へ入ってしまったのだという。霞ヶ関の「ガスライト」で6年間修業をし、京都に戻ってからは木屋町二条のバー「K6」で4年半働いた。

京都府・四条河原町
Bar Rocking chair(バー・ロッキングチェア) 写真1

35歳になって独立を考えた時に、ふと夢想したのが暖炉のあるバーだった。暖炉の暖かな火が揺れる前で、ロッキングチェアに座りながら一杯飲ると、どんなに幸せだろうと思ったようだ。坪倉さんが暖炉のあるバーと出会ったのは、代官山の「レガロ」。そのイメージが頭に残り、神戸の「YANAGASE」など暖炉のあるバーを見て回っているうちに、これを造るには一軒家しかないと思うようになった。「K6」で勤めながら1年ぐらいかけて探したのが現在の物件。京都は飲む所と住む所が近いために、繁華街から少し逸(そ)れたこの場所でもバーが成立すると考えたのである。 かつてバーには、回転数を求めていた時代があった。カウンターにできるだけ席を詰め、高い椅子を置き、座り心地を悪くすることで、回転数をよくしようとしていたのだ。つまり、止まり木的にバーの内装を造っていたのである。坪倉さんが営む「バー・ロッキングチェア」は、飾りでなく、本当に薪をくべて焚く暖炉が備えられている。そして暖炉前にはロッキングチェアが3席、坪庭に面した窓側に1席配されている。この椅子に揺られながら楽しむわけだから、一杯の酒をゆっくり時間をかけて飲むスタイルが店のコンセプトにもなっている。「このバーを始める時に、店の内装と提供する酒を気に入ってもらい、ゆっくり飲んでもらいたいと思ったんです。だから回転数はあえて捨てました」と坪倉さんは話す。「現に京都人は大阪人に比べてのんびりしているんで、お酒もゆっくり飲るんですよ」と付け加えた。 回転数をあきらめたからであろうか、この店は17時から翌3時までと営業時間が長い。「バーのわりに早くから開いていますね」と言うと、「17時だと、まだ明るいんですが、天窓から射し込む光が吹き抜けの漆喰の壁に反射して店全体がきれいなんです。明るい『ロッキングチェア』も楽しんでもらいたくて、早い時間のオープンにしているんですよ」と坪倉さんは説明してくれた。

京都府・四条河原町
Bar Rocking chair(バー・ロッキングチェア) 写真2
京都府・四条河原町
Bar Rocking chair(バー・ロッキングチェア) 写真3

フルーツと響12年のハーモニー

「バー・ロッキングチェア」にはメニューがない。あるのはテーブル上に置かれたポートワインの品書きのみ。この店では常時7種類のポートワインを揃えているそうだ。坪倉さんがある時、ビンテージポートワインを飲んで感動した経験があり、ビンテージものを提供したいと考えた。「ポートワインというと、日本人にはいいイメージがないのかもしれません。でも一度飲んだらはまるはず。特にウィスキー好きなら気に入ると思いますよ」。ビンテージポートというと、値が高い気がするが、この店では70年代や80年代のものなら2000円前後で飲めるというから一度は試してみたいと思った。 私がカウンターで飲っていると、坪倉さんが「面白いカクテルを作りましょうか」と言ってきた。「どんなものですか」と聞くと、別に名前ではなく、「フルーツと響のお酒とでも言っておきましょうか」と言う。 早速、注文すると、坪倉さんはグラスに角砂糖を1個だけ入れた。それから1/2個分の桃を小さくカットして氷とともにグラスに入れる。そして冷蔵している「響12年」(40ml)を注いだのである。

京都府・四条河原町
Bar Rocking chair(バー・ロッキングチェア) 写真4
京都府・四条河原町
Bar Rocking chair(バー・ロッキングチェア) 写真5

一口飲むと、「響12年」の繊細な味が喉に伝わる。そして桃を潰しながら、ちびちびと飲っていく。次にはウィスキーに浸された桃の風味がじんわりと口内に広がってる。そして徐々に角砂糖が溶け出し、甘みを発していくのである。「桃を潰しながら飲んでもいですし、ウィスキーに漬かったものをフォークで口に運んでいいですよ。初めはウィスキーの味がストレートに伝わりますが、それが桃のとろっとした風味が加わり、最後は甘みがやってくる。まさにこのバーらしくゆっくりと飲る人向けのカクテルです」と坪倉さんが解説してくれた。 速く飲みたい人にはブロックの氷ではなく、クラッシュアイスを用いた方がいいらしいが、それではこのカクテルの良さは伝わらない。あえて角砂糖を使い、時間かけて溶かすことで、独特の風味を与えたいと考えているのだろう。桃は1/2個分を使っているためにグラスの中でゴロゴロと存在感を示している。この量がお客さんには嬉しいようで、贅沢な一杯との印象を与えている。桃を用いるのは、8〜9月。8月は白桃、9月は黄桃と旬によって素材を替えている。ちなみにこのカクテルは旬のフルーツを使っているため、6〜7月はマンゴーで、12〜1月はラ・フランスでと、時期によって内容を変えていくそうだ。 「初めて『響12年』を飲んだ時にフルーツとの相性がいいと思いました。この酒は甘みがあって、飲んでいくと、長熟特有の締まった樽の風味が伝わってくるんです。ハイボールに使う時は、冷凍したものを用いますが、このカクテルでは冷凍した『響12年』を用いると、香りが抑えられる嫌いがあるので、私はあえて冷蔵して使っているんです」と話す。 そんな話を聞きながら桃を口に運ぶと、初めに食べた時より、ウィスキーの風味が染み込み、旨くなっている。ようやく角砂糖が溶け切ったのだろうか、ほどよく甘みを発している。「まさに古都のゆっくりとした時間が流れているようですね」。そんな感想を述べながら、NBA(日本バーテンダー協会)技能技術大会2010年関西大会総合1位受賞者の腕前を堪能した。

京都府・四条河原町
Bar Rocking chair(バー・ロッキングチェア) 写真6
京都府・四条河原町
Bar Rocking chair(バー・ロッキングチェア) 写真7
京都府・四条河原町
Bar Rocking chair(バー・ロッキングチェア) 写真8

Bar Rocking chair(バー・ロッキングチェア)

お店情報
  • 住所京都市下京区御幸町通仏光寺下ル橘町434-2
  • TEL075-496-8679
  • 営業時間17:00〜翌3:00
  • 定休日火曜日
メニュー
  • フルーツと響のお酒1300円
    (但しフルーツは時価なのでものによっては値段が異なる)
  • 白州12年1200円
  • 山崎12年1200円
  • ギムレット1000円
  • ジントニック900円
  • マティーニ1000円

バックナンバー