曽我和弘のBARのトレンドを読み解く!

酒を楽しみたい・・・。そう思ったとき、人はバーという止まり木を探す。そしてバーテンダーと話をしながら酒なる嗜好品を味わっていくのだ。そんな酒の文化を創り出してきたバーも千差万別。名物のカクテルで勝負している店もあれば、バーテンダーの人柄や店の雰囲気で人を集めているところもある。数ある名物バーを探し、今宵はコレを飲んでみたい。

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地域のフルーツを使った恐るべきぐびぐび系カクテル
大阪府・堂島
Food Bar ATHRUN(フードバー アスラン)

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Food Bar ATHRUN(フードバー アスラン) 写真

日の高いうちにオープンするバー

私は根が卑しいのか、はたまた待ちきれない性格なのかはわからないが、日の暮れぬうちに飲みたいと思うことがある。そんな時は16時から開いている「アスラン」を目指すのがいい。 16時というのに「アスラン」は、オープン時間と思えぬほど、異様な活気が漲っている。マスターの辰巳直樹さんによると「開店前の準備中にすでにお客さんが入り、一杯飲っている」とのことだ。北新地の全日空ホテルから少し北に行った所にある「アスラン」は、当初は14時から店を開けていた。

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辰巳さんが神戸の店を弟子に譲り、大阪に出て来た時に「とにかく何でもいいから北新地一番になろう」と思い、「サンボア」より早い14時に開店時間を定めた。「日の高いうちから誰が飲むの?との声もあったんですが、開けてみると意外にも買い物帰りの主婦がやって来て一杯飲って帰るんですよ。うちは2階でも窓があるから雰囲気が伝わりやすいのか、一見さんでも気軽に入ってくるようなんです。14時〜18時までの方が土曜より売上げがよかった時もあるくらいなんですよ」と辰巳さんは笑っている。ちなみに今は16時からの開店。これは北新地に13時からやる店ができたので、あっさりと北新地一早い店の座を譲り渡し、16時に変更したからだという。「でも、当初のことを知っている人は、開店前の掃除の最中に入って来て始めちゃうんです」と話す。

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「アスラン」の店主・辰巳直樹さんは神戸の人。ホテルシェレナや三宮のワシントンホテルで働いた後、29歳で独立し、三宮で「バー・アルフ」を始めた。8年間その店を営んだ後に、お初天神でバーの立ち上げに関わり、大阪へやって来たのである。北新地で再度自分の店を持ったのは、西日本一の歓楽街で自分の思うバーができるだろうかと試したかったから。安売りをせず、売りたいお酒を売る―。それが辰巳さんのモットーらしい。

響12年をベースに名物カクテルが誕生

辰巳さんが私に「まず一杯行きましょうか」と作り出したのは、この店の売りでもあるスプラッシュシリーズ。「響12年」をベースに使い、生のフルーツを入れて作る、いわゆる“ぐびぐび系カクテル”だ。この時、作ったのは「福岡スプラッシュ」で、グラスの中であまおう(苺)2個を潰し、その上から「響12年」40ml注ぎ、氷と砂糖きびのシロップを少し(15ml)加えて、ソーダ45mlで割る。辰巳さんによると、「甘みをケチると美味しくない」そうで、しっかりと甘みをつけるのが肝心なのだという。

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こうして出来上がった「福岡スプラッシュ」を口にすると、思ったほど甘さは強く伝わらなくて口当たりがよかった。しかし生のフルーツを使っているだけに苺の風味がしっかりし、あっさりとして飲みやすい。「苺は産地によって甘味と酸味のバランスが違うんです。あまおうは甘味が強いので他のスプラッシュに比べてシロップは控えめにしています」。甘味と酸味のバランスがうまく合えば、このカクテルはスムーズに成立をするらしい。「苺の味が強いわりには、ウィスキーの風味がしっかり残っていますね」と私が言うと、辰巳さんはこのカクテルのベースとなっている「響12年」について話を始めた。「高価なイメージのある『響17年』と比べると、12年の方はスタンダードなウィスキー。繊細さもありますが、17年よりはがっちりした味なので、カクテルベースにしても十分成り立つんですよ。発売直後のセミナーでチーフブレンダーの輿水精一さんが『カクテルベースとして使って欲しい』と言っていたので、試飲の時から『響12年』を使ったカクテルを想像していたんです」と話してくれた。
それで出来たのが「徳島スプラッシュ」というわけ。スダチを潰し、砂糖きびシロップを少し加え、『響12年』をベースにソーダで割ったものである。スプラッシュという名前はフルーツを潰すのと炭酸がはじけるイメージに沿って付けられたものである。「これが予想以上に受けて、お代わりが出るようになった。そこで気をよくして愛媛スプラッシュ、宮崎スプラッシュ、高知スプラッシュと各地のフルーツに合わせて作っていったんですよ。目標は47都道府県のスプラッシュを作ること」。

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現在、このバーには8〜10種類ほどのスプラッシュがある。県名に合わせて、その地の代表的果実を使い、アレンジしているのだ。最近では小夏を使って「土佐スプラッシュ」が登場したらしく、なかなかの好評ぶり。数ある中で最も人気なのが“ブラスプ”こと、「ブラジルスプラッシュ」。これはカイビリーニャの要領でライムを使って作っている。辰巳さんによると、この“ブラスプ”が酸味と甘味のバランスが一番いいそうで、人気があるという。おまけに梅酒樽で熟成したウィスキーの香りもほのかにして、さっぱりして飲みやすいのが特徴だ。これを一杯目からビール代わりに注文する人が多いそうで、ウィスキーがダメだという人でもぐびぐび飲って帰るらしい。まさに恐るべきぐびぐび系カクテルである。

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そもそも辰巳さんの売りは、フルーツを多用してカクテルを作ることだった。そこでうまく出合ったのが、「響12年」。これをベースにカクテルを作ると、他のウィスキーでは出なかった何かが得られたようである。 「響12年」が作り出すプラスαの味わいを求めて、さらにもう一杯「和歌山スプラッシュ」を注文した。このカクテルは紀州らしく、雲州みかんを丸ごと1個入れて潰し、氷を入れ、砂糖きびシロップを10〜15ml加え、「響12年」(40ml)をベースにソーダ45mlで割る。みかんの甘さと酸味がうまく融合し、まさに「響12年」を用いた時のプラスαの味を生み出している。

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気がつけば、いつのまにかぐびぐびとスプラッシュを味わっている。「アスラン」は、気軽にお酒を楽しめるバーなので、ついつい根が生えてしまいそうになる。「ところで全国制覇は進みそうなんですか」私はスプラッシュを飲み始めた時に、気になったことを辰巳さんに聞いてみた。すると、辰巳さんはにっこり笑いながら、「47都道府県のものを作るのはさすがにやめました。よ〜く考えてみると、果樹がある地域は固まっており、九州や四国ばかりに使える果物があるんですから」と言う。だが、季節が異なればできる果物も変わってくるのは事実。辰巳さんが「もうネタがつきた!」と言うまで通いつめてスプラッシュシリーズの展開を見てもいいのではないか。
ふと、そう思ってグラスの残りを飲み干した。

Food Bar ATHRUN(フードバー アスラン)

お店情報
  • 住所大阪市北区堂島1-2-16 k'sビル2階
  • TEL06-6346-1347
  • 営業時間16:00〜翌2:00
  • 定休日日曜
メニュー
  • 福岡スプラッシュ1300円
  • 和歌山スプラッシュ1300円
  • その他のスプラッシュ1300円
  • 響17年1700円
  • 響12年1200円
  • 山崎1400円
  • ジントニック1000円
  • ソルティドッグ1200円
  • ぐびぐび系カクテル1300円〜

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