BAR業態様 限定

バーテンダーズ アイ

「こだわり」、それは酒の道を追求するバーテンダーに必要な資質と思われている節がある。しかし「こだわり」は本来、固執、妄執など執着を意味するネガティブな言葉。バーテンダーには、およそ相応しくない。バーテンダーの仕事は、酒を振る舞う手法に専心する…つまり「凝らす」ことにある。プロフェッショナルとしての思い思いの「凝りよう」が、接客やインテリアなどの細部に沁み渡り、至福のグラスに宿り、静謐なBARの空気を産み出しているのだ。
そんなバーテンダーの「凝りよう」を取り上げる「bartender's eye」も今回が最終回。トリとして、渋谷「石の華」のオーナー・バーテンダー石垣忍氏の至福の一杯と考えぬかれたバーツールについて訊いた。

今回のテーマ
至福の一杯と考えぬかれたバーツール

石の華 オーナー 石垣忍氏

世界一バーテンダーの栄誉を持つ
石垣氏のバーテンダーズ アイ

ビーフィーター24で作る「織部」

世界一バーテンダーの栄誉を持つ石垣氏は、自身のバーでも数多くのオリジナル・カクテルを用意している。この日用意してくれたのは、ビーフィーター24を使用した「織部」。茶人「古田織部」をイメージして作られたユニークな一杯だ。

古田は、千利休が大成させた茶道を継承、利休七哲のひとりとされ、戦国時代から江戸時代初期にかけて活躍した武将。本名は古田重然。茶道のみならず、茶器、造園、建築などにもその才を発揮し、大胆かつ自由な気風で「織部好み」と呼ばれる流派をもたらした。

「利休七哲の中で、時として過小評価され、ちょっと変わり者とされる点が、バーテンダーのクリエイティビティに通じると考えています。特に、織部の色合い、織部式の茶器が好き。単純な発想ではなく、それでも思うがままに制作している点に魅力を感じます」とその作風を語る。

カクテル「織部」は、まず、抹茶パウダーをブレンダーで撹拌。これを大きなボストンシェイカーで、ビーフィーター24と丁寧にシェイク。ショートグラスに注ぎ、美しい金粉をトッピングし仕上げる。見た目は、やや濃厚なテイストを想像しがちだが、一口含むとジンの爽やかさが際立つ、抹茶風味の上品なフィニッシュとなっている。「カクテル・アーティスト」の異名を持つ石垣氏ならでは。着眼点に優れ、それでいてシンプルな逸品である。

茶人「古田織部」をイメージした一杯
金粉のトッピングも粋だ
数々のオリジナル・バーツール

「飲食という商売は、柔らかいもの。だからこそ、堅くやらないといけない」、石垣氏ならではの信念が表わされるひと言である。氏のツールに対する凝りようは、使用品はすべてオリジナルなのではないかと思われるほど多岐にわたる。

カクテル「織部」を作る際に登場した抹茶パウダーを入れた「茶器」のセットもオリジナル。「茶器」とは言ったものの、半透明のアクリル・セット。知人のアクリル工芸家の手によるという。

「ベースは、『陰陽』を表す大極図『S』を形取ったもの。ティースプーンも、木製では具現化不可能なカーブを創り出しています」。和を表現しながらも「和」だけではない、木材では表現できない工芸美を生み出している。

「S」は、氏のファーストネーム「SHINOBU」のイニシャル。「石の華」のバックバーには、やはり陰陽をモチーフとした「S」の文字が描かれている。

また、「エア・シェイカー」と名付けられたシェイカーは、氏が構想から設計まで手掛けたオリジナルのシェイカー。京王プラザホテルのチーフバーテンダー渡辺高広氏とともに手掛け、2011年に完成した代物である。

「ツールに凝るバーテンダーが多い中、シェイカーというのは、常に同じ形をしている…そんな議論から、新しいシェイカーを作ってみようということで、色々と思考錯誤した結果、生まれました」。

あまり奇をてらい過ぎず、専門的になり過ぎず、これからシェイカーを振ろうと言う者にも使ってもらう…そんなコンセプトで、バランスを考慮した結果、このフォルムに辿り着いた。 「普通のシェイカーよりも、もっと空気を含ませる構造にするためには、どうしたら良いか。氷を回し、撹拌するためには…と結局、『ラグビーボール状が良い』となり、サントリーさんの技術者に発注し、最終的にこの形に落ち着きました」。

普通のシェイカーは、トップ、ストレーナー、ボディの3つから構成されているが、本シェイカーは、トップとボディの2つから成る。トップの内側に計量の線があり、ワンタッチで組み合せることができ、左にひねるとロックされるので、投げてもトップが外れないほど。

ロケットの先端を製作する株式会社北嶋絞製作所も監修に参加している。シェイカーらしいシルバーに輝くボディは、既存のシェイカーのような段もなく、まさにロケットのカプセルのようでもあり、機能美を体現した見目麗しいフォルムを持つ。

さらに頻繁に使用されるバースプーン、さらにペストルもオリジナル。「バースプーンは、散々、既製品を使用して来たのですが、やはりその人それぞれに合った長さや重さがあるのではないかと考え、その疑問を解消するために作ってみました」。

氏にとって、何のストレスも残さないバースプーンの長さは33センチ。重さも氏の感触に合わせたもの。発注先にデータが残っているため、いつでも電話一本で作成、届けてもらえる仕組みになっている。

「美味しいカクテルを作ることが最優先。その為にはツールのカスタマイズも必要。そういう考えを持つようになったのは、4、5年前です」。

ペストルは、グラスの中でミントなどをスマッシュするために使用するツール。こちらもオリジナルを使用している。

「プラスティック製、ガラス製…こちらも様々なペストルを使って来たのですが、よりエグみの出ないペストルは…と追及して行く中、父が加工製造業を営んでいる手前、様々な素材で5種類ばかり試作品を出してもらいました。そのひとつから、さらに工夫を凝らしたのが、現在の完成品。適度な力を加えるだけで、綺麗にスマッシュできます」。

以前もカウンターで、このペストルについて訊ねてみたのだが、その詳細については、企業秘密なのだとか。

「良いツールは、やはり美しい。考え抜かれて出来上がった一本には、得も言われぬ説得力があります。逆にデザイン優先では、なかなか使い勝手が悪かったり…。やはり実用性ありきから生まれるツールこそ信頼に値します」と氏ならではの、思い入れが「石の華」のツールには宿っている。

「織部」にはオリジナルの茶器を使用
構想から設計まで手掛けたエア・シェイカー
バースプーンまで作る凝りようが素晴らしい
取材記者:たまさぶろ プロフィール

東京都渋谷区出身。千葉県立四街道高等学校、立教大学文学部英米文学科卒。「週刊宝石」、音楽雑誌などの編集者を務めた後に渡米。ニューヨーク大学およびニューヨーク市立大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。Berlitz Translation Services Inc., やCNN Inc.本社勤務などを経て、帰国。「月刊プレイボーイ」、「男の隠れ家」などへの寄稿を含め、これまでに訪れたことのあるバーは日本だけで600軒を超える。

最近の著書は「【東京】ゆとりを愉しむ至福のBAR」

著書

撮影:斉藤美春