BAR業態様 限定

バーテンダーズ アイ

「こだわり」、それは酒の道を追求するバーテンダーに必要な資質と信じられている節がある。しかし「こだわり」は本来、固執、妄執など執着を意味するネガティブな言葉。バーテンダーには、およそ相応しくない。バーテンダーの仕事は、酒を振る舞う手法に専心する…つまり「凝らす」ことにある。プロとしての思い思いの「凝りよう」が、接客やインテリアなどの細部に沁み渡り、至福のグラスに宿り、静謐なバーを産み出している。
そんなバーテンダーの「凝りよう」を取り上げる「bartender's eye」、今回は、ぜひ呑んでもらいたい、凝りに凝った珠玉の一杯を紹介する。

今回のテーマ
珠玉の一杯

酒仙堂 オーナー 樋渡洋氏

自家製ざくろシロップのジャックローズ

ざくろの花言葉は優美…。その言葉通り円熟した優美なテイストを提供するのが、「酒仙堂」のジャックローズである。店で使われるざくろシロップは自家製。氏が銀座の名店「オーパ!」に勤めている頃、オーナーの大槻健二氏から学んだ製法だ。「オーパ!では、もう作り方が変わってしまっているかもしれませんが、ウチでは『伝統の製法』を守っています」と温厚な氏が、茶目っ気も加えその製法について語る。

ざくろシロップは、毎年、10月中頃から11月いっぱいまで入手可能なカリフォルニア産を使用し仕込む。まず、上白糖1キロと水500グラムでシロップを作る。ざくろはプレッサーで絞り、半日寝かせる。滓(かす)と上澄みが分離するので、この上澄みのみを前述のシロップと合わせ、ざくろのシロップとする。一気にボトル7本分ほど仕込み、すぐに使用しない分は冷凍保存。「カリフォルニア産で仕込んだ時は、冷凍庫がいっぱいになるくらい」。これで春までしのぐ。どうしても足りない場合に限り、春先に入手できるニュージーランド産、チリ産で再度仕込みをすることもある。

市販のざくろジュースを試した過去もあるが、結局、1日寝かせ、滓を除き…工夫が必要なので、かえってざくろから仕込んだほうが手間も少ないとか。

さすが自家製で作り込むだけあって、この一杯、さっぱりしていながら、嫌みのない甘味が心地よいフレッシュな仕上がりだ。うむ、この原稿を進めているだけで、無性に「酒仙堂」のジャックローズが呑みたくなって来た。次の仕込みの秋まで、やや間がある…悩みところだ。

ざくろの色が鮮やかなジャックローズ
仕込みの秋から翌春までの”期間限定”

AVANTI 店主 岡崎ユウ氏

カクテルコンテスト優勝作品「カストロ」

各種カクテルコンペティションで数々の輝かしい成績を挙げている岡崎氏にとっても、2009年の「ハバナクラブカクテルコンテスト」は、もっとも思い出深い大会のひとつ。この日本大会で優勝した時の一杯が、この「カストロ」だ。

「優勝しキューバの世界大会に参加できたのは、このカクテルのおかげ」と当時を振り返る。

ローズマリーとグレープフルーツの果肉をつぶし、ライムジュースとシロップを加え、クラッシュアイスにラムと合わせビルドアップ。ローズマリーの葉をトッピングし仕上げる。グレープフルーツの酸味とシロップの甘さが、ラムと調和し、夏らしい気分が味わえる逸品だ。氏の「カストロ」を目当てに地方から訪れる客も多い。

カクテルの着想について、氏は「シガーに合うようなモヒートスタイル…と思い付き、仕上げました。(カクテルを創造する際は)まず、大まかなイメージを想定し、カクテルの名前を決め、その上でイメージに合う素材を掛け合わせ、作り上げることが多い」とその秘訣を語る。

もちろん、スタンダードなカクテルも人気。特に生姜を擦って絞った生姜シロップを使い、シェイクの上、炭酸を加えてアップする特製モスコミュール。銀座の女性客の中には、このモスコミュールだけをオーダーする大ファンもいると聞く。

今宵もAVANTIのカクテルの陰で、銀座に新しいエピソードが生まれていることだろう。

夏らしい気分が味わえる「カストロ」
根強いファンも多い「モスコミュール」

アナハイム 店長 山元涼子氏

モヒートではなく「オジイト」

「5年前に初めて宮古島を訪れて以来、すっかり気に入ってしまい、毎年、足を運んでいる」と愉しそうに語り始めた山元氏。なんでも宮古島で「モヒート」をオーダーするとミントの代わりに地産の薬草たっぷりの一杯が現れるのだとか。「長命草と紫蘇だったり…『ミントが入ってないのに、モヒート?』と不思議に思いつつ、すっかりはまって」とコケティッシュな笑みを浮かべる。

昨年の9月、現地のダイニングバー「ガリンペイロ」の女性に、この薬草を作っている畑の持ち主を紹介され、薬草を直送してもらっている。沖縄では、年配者の男性を「オジイ」と呼ぶ。オジイの畑で作られた薬草をもとに作るモヒートなので「オジイト」と名付けた。

「今日、手元にあるのは、ガバオ、ホーラーパーというタイ原産のバジルが2種類、宮古島のハーブ、レモングラス、紫蘇、ボルド・ド・ジンユ(ハーブの一種)。季節によって、手に入る薬草が変わるので、オジイトの中身もその都度変わります」。

沖縄の薬草は、東京ではなかなか見かけない。だが、アナハイムでは、月に一回宮古島から直送している。それゆえ、ここでは冬でも「オジイト」が愉しめる。

スピリッツやモルトもそろえながら、独自のカクテルにもチャレンジし続ける新橋の隠れ家…立ち寄るのを止めらない一軒である。

見た目も個性的な「オジイト」
産地直送の薬草を仕込む
取材記者:たまさぶろ プロフィール

東京都渋谷区出身。千葉県立四街道高等学校、立教大学文学部英米文学科卒。「週刊宝石」、音楽雑誌などの編集者を務めた後に渡米。ニューヨーク大学およびニューヨーク市立大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。Berlitz Translation Services Inc., やCNN Inc.本社勤務などを経て、帰国。「月刊プレイボーイ」、「男の隠れ家」などへの寄稿を含め、これまでに訪れたことのあるバーは日本だけで600軒を超える。

最近の著書は「【東京】ゆとりを愉しむ至福のBAR」

著書

撮影:斉藤美春