BAR業態様 限定

バーテンダーズ アイ

「こだわり」、それは酒の道を追求するバーテンダーに必要な資質と思われがちである。しかし「こだわり」は本来、固執、妄執など執着を意味するネガティブな言葉。華麗なるバーテンダーには、およそ相応しくない。バーテンダーの仕事は、酒を振る舞う手法に専心する…つまり「凝らす」ことにある。プロフェッショナルとしての思い思いの「凝りよう」が、接客やインテリアなどの細部に沁み渡り、至福のグラスに宿り、静謐なBARの空気を産み出している。
そんな「凝りよう」を取り上げる本シリーズ「bartender's eye」、今回はバーテンダーの思いの丈を表現するインテリアについて。

今回のテーマ
思い入れあるインテリア

石の華 オーナー 石垣忍氏

ブビンガ1枚板の8mカウンター

バーカウンターは、BARの「レーゼン・デートル」だ。扉を開け、カウンターへと歩み、シートに身を委ねる。バックバーに鎮座するボトルたちを品定めする前に、手に触れるのは「BAR」という呼称の語源とされるカウンター。その黎明期、勝手に酒に手をつける客が後を絶たないがゆえに、店主と客との間に横木(BAR)を設置したことを由来とする一説がある。この横木が、現代のカウンターだ。丸太に手を加えたような無骨なカウンターもあれば、無機質なステンレス製もあり。廉価なアクリル製を使用したものから、重厚な大理石による存在感溢れる逸品まで、「石の華」のような一級の木製カウンターは、その王道だろう。

この美しいカウンターは、長さ8mを越えるブビンガの一枚板。アフリカ原産のブビンガは、近年、和太鼓の胴にも使用されることで知られる。桃褐色の温かい木目が印象的な石の華のカウンターは、「縁」の賜物だと石垣氏は熱弁する。「店を開くにあたり理想のサイズが念頭にあり、実際に探したところ、それにぴったりの逸品を見つけました。こういうのは、すべて縁ですね」と目を輝かせる。

東京・木場の材木屋に手配を依頼したところ、「木を観に行きましょう」と声をかけられた。さっそくクルマに同乗すると、いきなり首都高速に乗り、連れて行かれたのが千葉県四街道市。「ものすごく広い材木置き場でした。そこに15年モノの花梨や鮮やかなメープルなどいろいろな種類が置かれ、その中に理想の一枚がありました。通常自然乾燥で3年から5年モノが良いとされていますが、まさにぴったりの4年のモノ。本当に幸運な出会いでした」。

しかし、理想の木材に巡り合ったからと言って、すべてが順調に進むわけではない。理想の「一枚板」を見つけたものの、いざ搬入となったらビルに入らず、泣く泣く真ん中で2枚に切断し設置する羽目に陥ったり、カウンターを設置してみるとカウンターの土台が木材の重量に耐えきれず崩壊したり、逆に木材にひびが入ってしまったり…最悪の場合は、設計に合わずせっかくの木材がお蔵入りするなど、幾多の障害が生じることさえある。理想を叶えることは、そう簡単ではない。

幸い「石の華」は、そんな問題にも直面せずにすべて順調に事が運んだ。店は、路面からやや階段を下った半地下に位置する。そのため、クレーン使用に道路を封鎖したり、外壁を取り壊すなどの大掛かりな工事も必要なかった。「店舗の外壁を完成させる前に、この8mを越える板を男手9人で無事運びこむことができました」。氏にとって、9人で四苦八苦し搬入したのも、心地よい思い出である。

「木は暴れる」とも言われ、上質の品でも年月が経つにつれ、ねじれや曲がりが生じたり、時としてヒビが入り、割れたりすることもある。しかし、開店9年を経た今でも木の素性の良さだろう、非常に素直なフラットさを保っている。「その意味でも、本当に『当たり』だったんです」と氏が頬を緩めるほど。

「カクテル・アーティスト」の異名を取る石垣氏の一杯を堪能するステージとして、今宵もこの美麗なカウンタートップは、名店に相応しい色艶をもって客を魅了している。

長さ8mを越えるブビンガの一枚板
幸運にも、理想の木材に巡り合えた

In The Room 84 店長 山根大輔氏

設計士の腕が発揮された8坪弱のレイアウト

In The Room 84は、銀座の「ハシ」8丁目4番地に位置する小さな一軒。エレベーターのない地下2階にあり、それがゆえに設計士のオーナーの工夫が随所に見られる作りとなっている。なにしろ、広さはわずか7.8坪。小さいながら、優雅な空間を演出しようというコンセプトのもと一級建築士の腕が発揮された。

まずはカウンターを一直線にレイアウトするのではなく、ショートカクテル・グラスのシルエットのような一風変わったフォルムに。グラスの足の部分を、バーテンダーとお客が対面する通常のカウンター形式にし3席を確保。グラスの縁部分に2席、グラスの側面部に1席と計6席を用意。そして、ソファ席はもっとも小さいカラオケボックス程度のスペースに2卓5席を綺麗にレイアウトしている。

この空間の中に、外堀通り側からもソニプラ通り側からも出入りできるよう、二か所に扉が設けられ、さらにトイレも雑居ビルにありがちな共用ではなく、8坪弱の中に個室を設え、見事に収めている。密室にトイレを配しただけに、トイレに足を踏み入れると、ビバルディの「四季」が流れ、音消しの機能まで備えている。

実は、限られた空間だけに犠牲になった部分もある。店長曰く「キッチンスペースがかなり限定され、バーテンダーの目線からすると、動線が厳しい。バックバーも小さい」のだとか。

だが、訪れる者にとって、ユニークな快適空間であるには違いない。小ぢんまりとしたBARでのんびり過ごしたいお客にはうってつけである。設計事務所関連のお客も多いのだとか。

小さな建坪で営業を考えている経営者には、ぜひ参考にしてもらいたい、銀座のカジュアルなBARである。

7.8坪に展開する斬新なレイアウト
個性的なインテリアも魅力的だ

BAR AVANTI 店主 岡崎ユウ氏

女性でも入りやすい内部の見えるエントランス

女性バーテンダー2名が応対するこの一軒は、銀座の本格的オーセンティックバーだ。しかし、一方、女性ひとりでも気軽に入ることができる魅力あふれる隠れ家でもある。

店主が気を配ったのは、その扉。スチール製の扉は、一部が縦に大きくガラス張りになっており、内部の様子が覗けるよう工夫されている。元来、重厚なスチールの一枚扉がはめ込まれていた。開店にあたり一部ガラス張りの扉にまるごと交換。ドアノブに手を掛ける前に、垣間見が出来るしつらえとした。エレベーターを降り、目の前に無機質で大きなスチール扉が広がっていたら、BARに慣れない女性にとって、確かに入りづらかったと想像できる。店主の配慮は、女性のみならず、一見客でも臆することなく、扉を開けるきっかけを創り出している。

実は、これ、店主・岡崎氏の実体験を振り返ってのひと工夫。以前、勤めてみたいと考えていた店に下見に足を運んだところ、エレベーターが開いた瞬間に、すでにそこは店内。心の準備が出来ていなかった氏は、思わず「すいません。間違えました」とそのままエレベーターに戻り退散。後日、のこのこと面接に伺ったものの、マスターに「あなた、一度、入口まで来たことがあるでしょう」と指摘され、非常にバツの悪い思いをした経験がある。こんなエピソードも手伝い、自らが店を開く際は、「誰でも入りやすい扉にしよう」と考えていた。

初めて足を運ぶBARは、慣れた者でさえ、扉を開ける瞬間、多少の緊張感が走るもの。どんな雰囲気か、感じの良いマスターか、客層は…などガラス越しに店内が見えれば、緊張感はかなり薄らぐ。

その窓から目に入るインテリアも、重厚感に溢れ過ぎないよう、ホワイトのウォールを基調にし、圧迫感が生じないように考えた。カウンターも幅を95センチとし、圧迫感のないようお客とバーテンダーの距離を保った。シートも地に足がつく、のんびりとくつろげる構成を採用。カウンター内もバーテンダーが余裕を持って仕事ができるよう150センチほど広い動線を確保している。「インテリアと主張するよりも動線を優先した作りにした」と氏も満足の仕上がりだ。

ついつい夜更けまで長居をしてしまう「麗しきバーテンダー」の一軒は、初めてBARに足を運ぶ女性にもぜひお勧めしたい。

ガラス越しに店内を垣間見られる
圧迫感の軽減を意識した店内
取材記者:たまさぶろ プロフィール

東京都渋谷区出身。千葉県立四街道高等学校、立教大学文学部英米文学科卒。「週刊宝石」、音楽雑誌などの編集者を務めた後に渡米。ニューヨーク大学およびニューヨーク市立大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。Berlitz Translation Services Inc., やCNN Inc.本社勤務などを経て、帰国。「月刊プレイボーイ」、「男の隠れ家」などへの寄稿を含め、これまでに訪れたことのあるバーは日本だけで600軒を超える。

最近の著書は「【東京】ゆとりを愉しむ至福のBAR」

著書

撮影:斉藤美春