BAR業態様 限定

バーテンダーズ アイ

「こだわり」、それは酒の道を追求するバーテンダーに必要な資質と思われている節がある。しかし「こだわり」は本来、固執、妄執など執着を意味するネガティブな言葉。バーテンダーには、およそ相応しくない。バーテンダーの仕事は、酒を振る舞う手法に専心する…つまり「凝らす」ことにある。プロフェッショナルとしての思い思いの「凝りよう」が、接客やインテリアなどの細部に沁み渡り、至福のグラスに宿り、静謐なBARの空気を産み出しているのだ。
そんなバーテンダーの「凝りよう」を取り上げる「bartender's eye」。今回は、各名BARからバーテンダー業界の将来を担う「未来の巨匠」たちに登場願った。

今回のテーマ
未来の巨匠

BARルヰ オーナー 菊地敏明氏推薦

堀切優佳 バーテンダー

「リキュールをストレートで呑んで頂くスタイルを広めて、明日への一杯を演出してみたい」、そう語る堀切氏は、2年間のアルバイト経験があるとは言え、プロとしてのキャリアは、まだ半年。しかし、志は高く、そのポリシーにもぶれはない。「最近、花のリキュールに凝っています。自分がハーブのリキュールのおかげでお酒を好きになったので、アロマテラピーのような感覚でお客様にもお勧めしたい。最近は特に女性の方に人気なんですよ」。

東京家政大学 家政学部・造形表現学科の出身。インテリア・デザインを専攻し、卒業後は設計事務所に勤めていた。だが、建築はハードウェアを作る仕事。一度納品してしまうと、顧客との接点が弱くなってしまう。そんな葛藤が彼女の中で芽生えた。次第に相手に快適さを提供しつづけることができる、いわばソフトウェアに魅力を感じ始めた。「ソフトを提供すると、ずっとお客様とお付き合いできる。そういう関係がいいな」と考え、結果、バーテンダーを志望するに至った。本格的な就職の為、知り合いのバーテンダーを巡ったものの、なかなか決まらない。東京・八重洲のBAR OCEANに電話したのは、思い付きに過ぎなかった。だが、それが縁で現オーナーと知り合い、「BARルヰ」のオープニング・スタッフとなった。

バーテンダーは、酒と客のかけ橋、そして通訳。お客様の声を聞き、酒の声に耳を傾け、初めて存在意義があると自覚している。「例えば『マッカランを水割りでくれ』とオーダーされたとします。マッカランはストレートで呑むほうが…と思いますが、お客様の側にもストーリーが隠されている。『こうやって呑むと美味しい』というのは、私が決めることではなく、お客様が決めること。バーテンダーとしては、『どんな呑み方が良いかな?』と頼りにしてもらえる環境作りを心掛けたいと思っています」と、しっかりと哲学を持っている。

その反面「バーにはいろんな国のお酒があるので、そのお酒を呑むとその国にいった気分になれるので好きです」と屈託なく語る可愛い一面も覗かせる。

彼女の紡ぎ出すギムレットには、いずれ本格派バーテンダーとなるであろう将来を予見させる原石のような輝きが隠されている。私が薦める「麗しきバーテンダーたち」のひとりだ。

雰囲気からも「ぶれない」姿勢が漂う
堀切氏による「ギムレット」

松濤倶楽部 オーナー 児玉亮治氏推薦

益子崇 バーテンダー

「大人になりたかった。同世代の誰よりも早く大人になりたかった」。そんな益子氏の台詞に、つい共感してしまう。「お酒が好きだったのもありますが、自分だけが早く大人になりたかったんです」。それがBARに通い始めたきっかけだった。世代はだいぶ異なるものの、私自身も同じだった。

「BARで酒を呑む」という行為は、「大人の男である証」だ。裏を返せば、BARに通うことは、大人への近道。BARには様々な人生の縮図がつまっている。そこで時を重ねることで、男は大人として磨かれる。

「ある日、本屋で雑誌を開いたときに、ふと目にとまったバー特集に惹かれ、そのうちの代々木上原にある一軒に行くと決めました」。意を決して足を運び、判りにくいバーの入口に辿り着く。何度も躊躇した挙句、扉を開いた。「バーは、なんと格好良いのだろう」、氏はその魅力に取り憑かれた。その代々木上原のBARから松濤倶楽部を紹介してもらったのが2005年の秋。

しかし、バーテンダーとしての葛藤がすぐ襲って来た。何もできない自分、まだまだできるという自分、そして、こんなこともできないのかという自分…技術的な問題もさることながら、コミュニケーションにおいても、勉強することばかりだった。

なんとなく仕事が上手く行っていない…そう感じた時期、ある人に「お前はバーテンダーだろ。なぜ、そんな暗い顔をしている。笑え! もっと口角を上げろ」、そう諭された。とにかく笑顔を心掛けた。繰り返すうちに、前向きになっている自分に気付いた。要は心構えだ。

「自分自身のレベルアップも必要ですが、それまでどれほど視野が狭かったに気付きました。自分で上手く行ったと思っても、ひとりよがりに過ぎないかもしれない。その点を必ず振り返るように、『いかにお客様の視線で考えられるか』を考えるようになりました」。

すでに、キャリア6年の中堅。しかし、「今でもお客様の話に応えるだけで精一杯です」と苦笑する。「滑舌が悪いらしく、『口を広げてしゃべってみろ』とか、良くつっこまれます。話す内容が伝わらなければ意味がないので、いつも注意を払っています」。

カウンター席でカクテルを傾け、氏に相対しているとこんな言葉が漏れた。「人の気持ちの判るバーテンダーになりたい」。そんな真摯な姿勢が、彼の巨匠たるべき道を切り開いて行くのかもしれない。少なくともそんな期待を抱かせるひとりだ。

キャリア6年でも、真摯な姿勢は変わらない
松濤倶楽部 店内

バー・アトリウム銀座 マネジャー 清水智恵子氏推薦

佐藤望 バーテンダー

デザイン経験者からバーテンダーへ転身…そう聞くと意外に聞えるからもしれないが、実はそう珍しいケースではない。佐藤望氏もそんなひとり。モノを作る「クリエイティブ」という共通点が、そうさせるのだろうか。

高等専門学校から有名美大へ。卒業後は、デザイン関係のアルバイトを始めた。その後「就職」を念頭にインターネットで職探し。「働きたい場所」を優先、銀座という街で探した結果、現職の求人を見つけた。デザインの仕事と異なり、自分が作ったモノが直接、目の前の人の手に届く…。「バーテンダーもいいかなぁ」と興味を持ち、チャレンジ。見事採用となり、2011年初頭からカウンターに立つ。

それまで漠然とした憧れしかなく、1年前には飲食業に従事するとも想像しなかった。バーテンダーの大変さについて訊ねると、「(酒席でもあるため)色々な大変なお客様がいるのだろうな」と思ったという。しかし、BARは、シャネル銀座店の近隣の瀟洒な隠れ家。場所柄、良い顧客に恵まれ「自分の想像とは異なる嬉しいギャップがあった」とか。

もちろん、バーテンダーの奥深さに、まだまだ苦闘する毎日でもある。「作れば作るほど難しさ、違いに気付かされます。でも、今は、作れば作るほど、興味が湧いて来ます」と前向きだ。

思い入れがあるカクテルは、ホワイトレディ。ビギナー・バーテンダーの練習素材として取り上げられることも多いが、彼女にとっては、ジェネラル・マネジャーの清水氏に初めて作ってもらったひと品でもある。「創る人によって、こんなに味が違うんだと新鮮な驚きと興味を持ちました。自分の中で大切にしている一杯です」。そんな驚きを客にも提供できるよう、目下修行中。「自分のホワイトレディは、まだまだ。60点付けられると良いのですが…」とはにかむ。「常連さんで『彼女でもいいよ』とおっしゃってくださる方にのみお出ししています」と師匠の清水氏も厳しい。

「仕事に対し、人に対し、真摯に向き合えるバーテンダーでありたい」と語る佐藤氏のホワイトレディ、マネジャーの注釈抜きで味わえる日が来るのが愉しみである。

初々しい佇まいも魅力のひとつ
取材記者:たまさぶろ プロフィール

東京都渋谷区出身。千葉県立四街道高等学校、立教大学文学部英米文学科卒。「週刊宝石」、音楽雑誌などの編集者を務めた後に渡米。ニューヨーク大学およびニューヨーク市立大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。Berlitz Translation Services Inc., やCNN Inc.本社勤務などを経て、帰国。「月刊プレイボーイ」、「男の隠れ家」などへの寄稿を含め、これまでに訪れたことのあるバーは日本だけで600軒を超える。

最近の著書は「【東京】ゆとりを愉しむ至福のBAR」

著書

撮影:斉藤美春